ASEAN共同体構築への課題と期待

東南アジア諸国連合(ASEAN) 加盟10 カ国は2015 年11 月、「ASEAN共同体」を発足させました。加盟国はさらなる結束を目指し、さまざまな取り組みを加速しています。ASEAN の国々が共同体という形で結びつくことにより、この地域とかかわって行く旅行者やビジネスパーソンに対し、どのような影響がもたらされるのでしょうか。
インドネシア、フィリピン、ベトナムでジャーナリストとして活動されている巣内尚子さんに現状と課題をお聞きしました。(構成/さかいもとみ=フリージャーナリスト)

【巣内尚子さんプロフィール】 フリージャーナリスト、翻訳者。1981年生まれ。 東京学芸大学在学中に、ドキュメンタリー映画のアシスタントとして、取材、撮影補助などの仕事に従事。卒業 後は日本の業界紙勤務を経て、フランスに滞在。その後、インドネシア、フィリピン、ベトナムにて記者やフリー ランスライターとしての仕事に従事し、東南アジアの経済や社会の動きを取材・執筆。これまでに「WEBRO NZA」「JBpress」「週刊金曜日」「連合」などに寄稿。Global Press(在外ジャーナリスト協会)メンバー。

【巣内尚子さんプロフィール】 フリージャーナリスト、翻訳者。1981年生まれ。東京学芸大学在学中に、ドキュメンタリー映画のアシスタントとして、取材、撮影補助などの仕事に従事。卒業後は日本の業界紙勤務を経て、フランスに滞在。その後、インドネシア、フィリピン、ベトナムにて記者やフリーランスライターとしての仕事に従事し、東南アジアの経済や社会の動きを取材・執筆。これまでに「WEBRONZA」「JBpress」「週刊金曜日」「連合」などに寄稿。Global Press(在外ジャーナリスト協会)メンバー。

――ASEANが「共同体」を構築するに至った背景として、どのような理由が考えられますか?
巣内尚子さん(以下、巣内) ASEAN共同体は「政治・安全保障」「経済」「社会・文化」の3分野での協力関係の構築を促すことを目標に掲げています。このうちのひとつが「ASEAN経済共同体(AEC)」です。
ASEANは1967年に設立され、当初は比較的緩やかな連携の形をとってきました。一方、中国やインドといった地域大国の勢力拡大、1990年代後半にアジア諸国に大きな打撃を与えたアジア通貨危機、世界貿易機構(WTO)体制の停滞といった国際情勢の変化の中、ASEAN加盟国間のより強い結びつきが目指されるようになりました。

経済のグローバル化の中、これまでにASEAN各国は農作物や天然資源をはじめとする一次産品の輸出国として重要な地位を占めているほか、「世界の工場」と呼ばれた中国の賃金水準が上がる中、新たな生産拠点としての役割を担うようになっています。さらに加盟国の経済成長に伴う所得向上とその人口規模から、「消費市場」としても脚光を浴びています。こういった動きの中、東南アジアにあるそれぞれの国が単独で社会・経済の発展を目指すより、結束して成長を狙った方がより効果的であると期待されています。
――「共同体」を作ろうとしている政治的、外交的背景にはどんなことがありますか?

巣内 ASEANには約2億5000万人もの人口を抱えるインドネシアから、経済発展の優等生とさ
れ高度産業が集積するシンガポールやマレーシア、自動車産業が成長し「アジアのデトロイト」と呼ばれるタイ、長い戦争の歴史を経て経済成長路線に乗ったベトナム、軍政支配の歴史を持つミャンマーなど、多様な国から成ります。人口、経済の成長度、文化・言語・宗教、社会、歴史など、各方面での多様性を抱えています。その上、東南アジア諸国の国境線は西欧による植民地支配の影響を受けていることもあり、例えばフィリピンやインドネシアのような島しょ国では島ごとに異なる言語が使われているなど、一国の中にも多様性・多文化が存在します。
そんな中、インドネシアのような地域の大国もある一方、国際的な発言権はほとんどないという国もあります。ところがA SE A N各国は、近年の中国・インドの多分野での勢力拡大やこれらに対抗する米国の対アジア戦略をはじめダイナミックな国際関係の変化に直面しています。
またBRICsが首脳会議を開いたように、新興国がまとまることで先進諸国に対し意見しようと
する動きもあります。
こうした中、外交的発言力の弱い「小さな国」をも含むASEAN諸国は、政治・経済・外交の各分野についてASEANというチャンネルを通じて対外関係の中で発言力を増そうとしています。

asean

―― 多国間を結ぶ地域統合の例として、欧州連合(EU)がひとつのお手本になると思うのです
が、ASEAN共同体との違いはどのようなものでしょうか?
巣内 EUは歴史的に見ても極めて特殊で強力な地域統合だと思うのです。EU加盟国は主権の一
部を欧州議会に委譲する形で統合が進められていますし、通貨統合や共通外交、安全保障、司法協力などさまざまな分野で協力が進められています。欧州議会では、加盟国が持つ共通の課題についても論議されています。
一方の「共同体」は各国の主権を尊重し、意思決定も協議で進められるといった「緩い関係」で、内政不干渉についてもはっきりと謳っています。ですから、AEC発足の結果、欧州のように通貨統合が行われるとか、新たな議会が生まれるといった動きはありません。
―― ASEANを構成する10カ国を見渡すと、インフラをはじめとする社会整備に大きな違いが
あります。「共同体」構築によって、これらの格差は解消して行くのでしょうか?
巣内 加盟国間の格差解消、是正は大きな課題のひとつとして持ち上がっています。特別な手段を講じなければ、「共同体」の構築は工業先進国の方が第一次産業を基盤にした国より便宜を受けやすいと考えています。企業はより利益を確保できる地域での生産・販売を目指そうとしますので、例えばベトナムではASEAN経済統合が進み域内関税がゼロになるのを見込んだ海外の自動車メーカーがベトナムでの生産を取りやめ、他国に生産基地を動かそうとしているとの報道も出ています。これが実施されれば、ベトナムの自動車産業にとっては大きな痛手になるでしょう。
すでに10カ国の中でも先行している国の方が「共同体」の恩恵がより大きいでしょうから、後発国であるCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)に対する支援を積極的に行わないと却って加盟国間の格差が広がって行くのではないか、という懸念を感じています。
ただし、これもベトナムの例ですが、ASEANの経済統合の進展の中で、繊維産業の集積がベトナムで進んでいき、ベトナムの繊維部門が発展するとの見通しもあります。産業分野により企業はどこに投資すればいいのかを見極めて行動をすることになると思いますが、各国政府も自国の強みと弱点を見極めた上で、有効な産業政策を講じることによりチャンスをつかむことが求められているといえるでしょう。
――「共同体」が構築されましたが、現状の取り組み状況はどうですか?
巣内 経済統合に向けた動きの中で「ヒトの移動」と「サービス貿易」の2つの分野の遅れが顕
著です。前者は域内における人の移動を促すための枠組み作りを目指すものです。それに向け、経済共同体を形成する上で「資格の相互承認協定(MRA)」を行うとの目標を掲げていますが、まだ調整に手間取っています。
後者の「サービス貿易」への取り組みですが、越境取引と国外消費に関する自由化については妥結が近いものの、域内他国での拠点設立の自由化の問題は依然として課題が残っています。

――取り組みが進んでいる分野にはどんなものがありますか?
巣内 「物品貿易」に関する関税撤廃には大きな前進が見られます。CLMVを除く6カ国相互間の関税はすでにほぼ100%撤廃されていますし、残りのCLMVについても2015年中に品目ベースで93%の関税が撤廃される見通しです。これまでに各国は個別に貿易協定を結んでいますが、今後、どのFTAを用いてビジネスを進めるのが有利なのか、最適なものはどれかを選択する動きが進むと考えています。

― ―そのほか、ASEANを取り巻く今後の課題はどんな点にある、とお考えですか?
巣内 高度人材の移動による頭脳流出が起こる可能性に加え、労働者保護の枠組みがきちんと整備されないままに単純労働者の移住労働が拡大することを危惧しています。
賃金の高い国に専門職の人々が流れることにより、送り出し国で医師や看護師をはじめとする人材の不足に陥る可能性があります。また労働者保護の枠組みが構築されないままに、リスクにさらされやすい非熟練労働者の移住労働が広がれば、権利侵害やひどい場合は虐待などの危険に労働者がさらされる懸念もあります。もともと東南アジア地域からは女性などぜい弱性の高い労働者が移住労働をしてきた経緯があるのですが、その中で既に多数の虐待や権利侵
害の事例が起きています。東南アジア地域では仲介業者が移住労働をあっせんする事業活動を広げていますが、中には問題のある業者や仲介者、さらには移住労働者を狙う犯罪組織も存在し、労働者が「よい仕事がある」とだまされ、人身売買の被害にあう事例もあります。こうした事態に対処するため労働者を保護する体制を整備することが急務です。
さらに、東南アジアの中にはまだ社会基盤が十分に整備されていない国もあるのですが、移住労働者がそうした発展途上にある国から送り出される場合、送り出し国側は海外で働く自国民からの仕送りに依存する経済体質になる可能性もはらんでいます。既に移住労働者の世界的な送り出し国であるフィリピンでは、医療や教育などの基本的な社会インフラの未整備を海外からの仕送りが補ってしまっている現状があります。本来ならば政府が提供すべき社会インフラが整備されないままに、仕送りがこの不備を補ってしまっているのです。しかし、全ての国民が海外出稼ぎに出られるわけではなく、貧困層など政府の施策を必要とする層は医療、教育などに十分にアクセスできない状況が残ってしまっています。
また、政治体制の多様性も目につきます。ASEAN5(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)では民主制度が確立していますが、ブルネイは専制君主制、ベトナムとラオスは一党支配、カンボジアは立憲君主制を維持しています。ミャンマーでは先の選挙でアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が勝ちましたが、軍部の力は依然として強い状況です。つまり10カ国の政治体制の違いは大きいのです。もともと東南アジア地域では「国益至上主義」を唱える国があることが指摘されてきた中、「共同体」がどのような舵取りを見せて行くのか、引き続き注目したいと思っています。
――日本にも近い東南アジアでの地域統合の動き。新たな枠組みがアジアにどのような変化を
与えて行くのか、特に格差是正への取り組みに期待したいものです。

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公開された日付: 2016年07月18日
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